ドイツ暮らしも気づけば6年目。
現在のドイツ・ミュンヘンでの日々の生活の中で、ふと北海道旅行を思い出す瞬間が何度もあります。
気温が低く空気が澄んでいるところ、視界が広がるのどかな風景。
そんな「感覚の共通点」は、旅行ではなかなか気づけない、長く住んでこそ見えてくるものかもしれません。
この記事では、ドイツと北海道の似ている点を、気候・自然・暮らしの面からご紹介します。
・ドイツでの生活に興味のある方
・近々ドイツに引っ越す予定の方、またはドイツへの引っ越しを検討中の方
寒さと乾燥、似た気候条件
北海道とドイツ(特に南部)の気候には、共通点がいくつもあります。
どちらも冬の寒さが厳しく、最高気温が0度前後という日も珍しくありません。
ミュンヘンでは、量は北海道ほど多くはないものの、1月や2月を中心に雪が降る日が何日もあり、降った雪が数日間残ることもあります。
北海道では内陸部に行けば行くほど冷え込みが強く、氷点下20度以下になることも珍しくありません。
海から遠いミュンヘンなどのドイツ南部でも、強い寒波が来ればマイナス10度~20度程度の冷え込みになります。
また、夏の気温の低さも北海道と似ているところがあります。
近年は、ミュンヘンを含むドイツでも、北海道と同様に平均気温を10度上回るような異常な高温に悩まされることもあります。
それでも、30度を超えない日が多く、夜になると気温が下がり熱帯夜になることが少ないのは、ドイツも北海道も同じです。

さらに共通しているのが、空気の乾燥です。
冬になると加湿器が欠かせないという人は多いのではないでしょうか。
北海道の家庭では、ストーブの上にヤカンを置いて蒸気を出して加湿する人がいると聞いたことがあります。
ドイツでも冬の室内は極端に湿度が下がり、朝起きると喉がカラカラ、肌もガサガサ、なんてことも。
とくに築年数の古いアパートに住んでいると暖房がセントラルヒーティングで乾燥しやすく、「加湿器」「リップクリーム」「ボディクリーム」の三種の神器が活躍します。
日本の本州から来た人にとっては、この乾いた寒さは最初かなり驚きかもしれませんが、北海道出身の人なら「なんだか懐かしい」と感じるかもしれません。

空が広く、道がまっすぐな風景
北海道の風景の特徴といえば、やはり広大な大地と空。
まっすぐに伸びる道、見渡す限りの畑や牧草地、遮るもののない地平線…。
これはまさに、ドイツの地方都市や郊外でも頻繁に目にする光景です。
特にバイエルン州の田舎道や、旧東ドイツ地域の広大な農地では、どこまでもまっすぐな道路が続き、信号もなく、車の通りも少ない静かなエリアが広がっています。

私は、Deutschlandticketという月58ユーロ(2025年5月現在)でドイツ全国のローカル列車乗り放題のチケットを使って、日帰り旅行をすることがよくあります。
その際に、都市を離れるとすぐに、広大で起伏の少ない農地と、それに沿って走るまっすぐな道をよく見かけます。
その度に、「これって、北海道の田舎の風景に似ているなあ」と思ってしまいます。
また、空の広さという点でも共通しています。
北海道もドイツも、大都市の一部地区を除くと建物が低く、空が高く感じられるのが特徴です。
夕焼けがじわじわと空を染めていく時間帯のあの大きな空を見上げる瞬間には、どこか心がほっとします。
どちらの土地にも共通するのは、自然と人との距離が近く、空間に余白があるということ。
都会の喧騒を離れて、ゆったりとした時間の流れを感じられるのは、どちらの場所でも同じです。

農業と酪農が根づく文化
ドイツの田舎を歩いていると、牛や羊がのんびり草を食んでいる姿や、小さな農家が自家製チーズやはちみつを売っている看板を見かけます。
こうした光景は、北海道の農村地帯ともよく似ています。
例えば、北海道ではじゃがいもやとうもろこしの栽培、酪農を中心とした乳製品の生産が盛んです。
スーパーに並ぶ「北海道産牛乳」「十勝産バター」といった表示は、日本全国でも人気がありますよね。
ドイツでも、特に南部バイエルン州では、地元で生産された牛乳やヨーグルト、チーズが非常に豊富です。

面白いのは、「地元のものを地元で食べる」文化がどちらにも根づいていることです。
日本では北海道産の食材が「特別なごちそう」として扱われることも多いですが、北海道の人々にとってはそれが日常。
ドイツでもまったく同じで、「近くの農家のミルク」や「村のベーカリーのパン」がいちばん新鮮でおいしいと考えられています。
また、都市部のスーパーでも「Regional(地域産)」というラベルが付いた商品が目立ち、消費者の間でも「ローカルであること=品質の証」として受け入れられています。
こうした価値観もまた、北海道とドイツの共通点のひとつだと感じます。

シンプルで素朴な食文化
日本全国の中でも、北海道の料理には「素材を活かす」シンプルなものが多い印象があります。
バターと塩で蒸しただけのじゃがいも、昆布と鮭の旨みを生かしたちゃんちゃん焼き、新鮮な海産物をそのまま焼いたものなど。
調味料よりも、素材の味を楽しむことに重きを置いているのが特徴です。
ドイツの家庭料理も、実はとても似ています。
茹でたじゃがいもに少しの塩をかけるだけの「Salzkartoffeln(塩じゃが)」、ソーセージとザワークラウトを添えただけの一皿、パンにハムやチーズを乗せるだけのシンプルな朝食。
どれも決して華やかではないけれど、地に足のついた食卓という印象があります。

また、どちらの地域でも、冷涼な気候ゆえに保存食文化が発達しているのも共通点です。
北海道には鮭ルイベ漬や干物、野菜の漬物などの保存食が根づいていますが、ドイツにもソーセージや酢漬け、ジャムなど、冬を越すための工夫が感じられます。
食文化はその土地の気候や歴史を映し出す鏡のようなもの。
北海道とドイツの「素朴で滋味深い食卓」は、どちらに暮らしてもどこか心を落ち着かせてくれる存在です。
ローカル志向の強さと地元愛
北海道とドイツには、地元を大切にする文化が共通して根づいています。
旅行で訪れると「道民は道産品をよく食べる」と感じるかもしれませんが、実際、スーパーの店頭にも「北海道産」や「地元野菜」といった表示がしっかり並んでいて、消費者もそれを積極的に選ぶようです。
ドイツでもこの「地元愛」は非常に強く、特にバイエルン州では地元で作られたビールやパン、チーズに強い誇りを持っています。
スーパーの棚には「Regional(地域産)」のコーナーが設けられており、生産地が明確な商品が人気です。
地域密着型のお店や、週末のMarkt(マルクト=市場)も多く、そこでは農家が直接野菜や卵を販売していて、消費者との距離がとても近いと感じます。

このような「自分たちの土地で育ったものを食べる・使う」という感覚は、グローバル化の時代にあっても失われていません。
それどころか、むしろ都市部の人々の間では「地元への回帰」がトレンドになっているようにも感じます。
北海道もドイツも、地元を誇りに思い、その価値を再発見する動きが着実に広がっているのです。
共通する静けさと穏やかさ
もうひとつ、北海道とドイツの意外な共通点として挙げたいのが、日常に流れる静けさと穏やかさです。
もちろん場所によって差はありますが、北海道の郊外や地方都市で感じる「音の少ない空間」、あるいは「時間がゆっくりと流れているような感覚」は、ドイツの暮らしにもよく似ています。
例えば、ドイツでは日曜日になると多くの店が閉まり、街全体が静かになるという文化があります。
これは「Ruhetag(休息日)」という考え方が根強く残っているからで、日曜は家族と過ごしたり、散歩をしたり、本を読んだりする日として認識されています。
北海道でも、都市部を離れると商業施設が限られ、休日には自然の中でのんびりと過ごす(もしくは過ごさざるを得ない)というスタイルが多く見られます。

また、どちらも騒がしさや派手さよりも、落ち着きや居心地の良さを大切にする土地柄です。
ドイツ人の生活には「静けさを尊重する」文化があり、夜間の騒音や無駄な大声を控える習慣があります。
これは日本人の感覚にも通じる部分で、北海道出身の方にとっては特に馴染みやすいと感じるかもしれません。
この静かで穏やかな暮らしは、日々のストレスを和らげ、心を整えてくれるもの。
北海道とドイツは、どちらも「静けさの中に豊かさがある」ことを教えてくれる場所なのかもしれません。
まとめ
地理的には遠く離れているドイツと北海道ですが、自然環境や暮らしの雰囲気、価値観など、多くの共通点があることに気づかされます。
そのおかげで、ドイツにいるのにもかかわらず、北海道を旅行した記憶がよみがえる時があります。
もし、北海道が好きな方や、あの静けさや広さを恋しく感じている方がいれば、ドイツの田舎町を旅してみると、意外な懐かしさを感じるかもしれません。
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